スポットライトが照らす最高のステージ
レフェリーとしてNBAに挑戦 第3回

2019年07月12日



文と写真:皆人公平/写真:大澤智子

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上田篤拓。静岡県出身の41歳(1978年5月生まれ)。JBA(日本バスケットボール協会)審判グループ シニアテクニカルエキスパートの肩書と合わせ、FIBA(国際バスケットボール連盟)レフェリーインストラクターの要職も務める。インタビューをお願いしたのは、ほんの短い立ち話がきかっけだった。「NBAで笛を吹きたかったんですよ」というひと言を聞き、“!”……プレーヤーだけではなくても、世界最高峰のコートに立つ夢を追う……そのアプローチに興味が湧いた。

第3回 次へつなげていくこと
 2007年と08年、NBAのサマーリーグで審判を務め、bjリーグでは9年間審判を続けた。その後、現在の肩書の通り、審判のスキルアップやプロの審判の育成をサポートする役割を任されている。今後の展望についての考えを聞いてみた。合わせて、審判の醍醐味についても質問すると、こんな答えが返ってきた。

 「JBAに来て4年が経ちますが、JBA公認審判のプロフェッショナルと言えば、加藤誉樹(たかき)さんが第1号。プロフェッショナルこそまだ1人ですが、B.LEAGUEやWリーグを担当する審判全員が、ご自身の仕事をされた上でウィークエンドの試合に臨み、限られた時間の中でスカウティングや試合の準備を行うなど、“プロ意識”は相当高い。現在、JBAとしてはもっと増員したいと考えていると聞いているので、プレーヤーならNBA入りした渡邊(雄太)選手や八村(塁)選手を追いかけて切磋琢磨するように、審判も加藤くんを追いかけてプロを目指して欲しい。僕がそうしたようにNBAを目指してもいい……。そういう背中を見せられる人を輩出していかなければならないと思っています。審判も夢がある、そんな世界が広がっていけばいいと、僕自身は思っています。

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 「審判の醍醐味と言えば……みんなに注目してもらえるコートに立ち、大きな責任感をまっとうできることじゃないでしょうか。これは高校生の大会や国内の試合、どれでも同じことが言えると思いますが、その中でもB.LEAGUEやWリーグのファイナルのコートに立てる、レフェリングができるというのは大きな喜びです。上を目指していく中でさまざまな失敗をするでしょうし、完璧なレフェリングができるわけでもない。それでも、いくらでも勉強できるんです。コーチやプレーヤーも失敗を重ねてきていますし、他の仕事でも同じでしょう。突き詰めれば突き詰めるほど、どんどん深く入って行ける、中毒になるぐらい……。そういう意味では変わり者が集まっているのかもしれませんね(笑)。最高のステージ(コート)に立つこと、そこにたどり着くためにどれだけパーフェクトなレフェリングを目指し、どれだけ時間とベストな環境を求めていくのか……。こういう感覚を味わえる仕事はそうないかもしれません」。

 一瞬迷ったが、こんなことも聞いてみた。審判はコート上のコンダクターではないだろうか、そう感じていたからだ。しかし、その表現は適切ではないようにも思う。笛の吹き方ひとつでいろいろな状況が生まれてしまうのはNGだろう。

 「それは、コンダクターという言葉の意味合いにもよります。僕もコンダクターという言葉を使うことがありますが、それは試合が始まった瞬間から、何が起こるかはわからず、どんなコンタクトが起こって、どんな展開になるのかはわからない。でも、どんな状況になったとしても道ならしをしていくのが審判だと理解すれば、コンダクターとしての役割が求められます。力量が問われますし、それも審判の面白味、達成感につながるものではないでしょうか。決まったルールの中で、とても繊細に、微妙なバランス感覚を持ちながらジャッジしていく。一度判定を下したら、同じ現象に対してはフラットな判定をやり続けなければならない。一瞬の出来事を見極めながら試合終了までたどり着かせ、そこにゲームの価値を保ち続けるのが審判(コンダクター)なんです。最初から最後まで、1つ1つが選択の連続ですから、やっぱり面白い。
 同じ試合は1つもありません。だからこそ、完璧を目指す。でも生涯完璧はないから面白いんです(笑)。今日の試合は完璧だった、もう自分は大丈夫、そう思ったとしら、その時に審判としては笛を置かなければならないと思います。いつも、そう思ってやってきました」。

1人でも多くの審判を輩出するために
 次に「レフェリーインストラクター」について教えてもらった。新たな人材となる審判の育成は想像がつくが、実際の仕事はどうなのだろう?

 「組織的にはいろいろな役割がありますが、主にはFIBAからルールに関する通達などがあればそれを翻訳しつつ、その理解はどうなのかをレポートにまとめ、FIBAに報告することもあります。FIBAのインストラクターという立場では、ルールに関して各国や日本国内にどのようにわかりやすく通達するかをワーキンググループで検討する仕事も担っています。
 審判の技術向上で言えば、主にB.LEAGUE、Wリーグ関連の業務で例えると、審判の技術や判定に関する映像の配信をしたり、そこにレポートを添付したりと、シーズン中は毎週担当審判と情報共有に努めます」。

 FIBAのレフェリーインストラクターはレベル1~3(レベル3が最上級)まであるそうで、制度そのものを構築中とのこと。現状レベル3は不在であり、レベル2は10名ほどで上田さんもその一員である。国内はと言うとT級以下、1~3級まであり、T級には30名弱がいる。

 「今夏のワールドカップ中国大会では、会場にFIBAインストラクターが集まり、担当する試合をチェックして、その後笛を吹いた審判とのミーティングをします。その後、内容をまとめてレポートをFIBAの審判長に提出します。アンダーカテゴリーを含めたFIBA主催の国際大会に赴くだけではなく、レポートを互いに確認し合ったり、ルール変更にまつわる提言をすることもあります。ルールを決めるのは僕たちではありませんが、実情を分析したレポートを上げるのがインストラクターの役目。その後は審判長が理事会やテクニカルコミッティーに報告し、議題に上げるかどうかを決めていきます。
 また、国内ではインストラクターのみなさんが上げてくださったレポートを検討し、JBAの審判長に上げて各種の部会や委員会の判断で、今後のルール変更のタイミングや運用についての話し合いが行われたり、国内の指導に向けての情報共有をしたりします。国内の業務と、FIBAでやっていることはある意味似ています」

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 最後に、現在のキャリア、ポジションを前提に、将来的な夢を語ってもらった。

 「そうですね、JBAにおける審判制度の仕組みが変わったこともあり登録者数は増えています。5万人ぐらいだと聞いていますが、サッカーは20万人以上……。もっともっと審判を好きになっていただき、サッカーと同程度の規模を目指したい。ただ、個人的な感覚を言えば、今は立場上、現場のみんなとの距離感ができてしまったら嫌だなと感じています。立場にとらわれることなく、とにかく現場を大切にしたい。それは審判だけではなくて、お客様もメディアも、スポンサーも、クラブも同じ僕たちのファミリーですから。そんな思いを大切に取り組んできた4年間ですから、これからも忘れずに邁進したいです」。

 以前、「現場に戻りたい」っておっしゃってましたが、と水を向けると、

 「毎日そう思っています(笑)。NBAを目指した時もそうでしたが、アリーナに行ってその試合の笛を見る、もしくはコート上で笛を吹く……。そこで得た感覚を後輩に伝えていくことができればいいなと思っています。頭で考えているだけでは実際の現象であったり、現場が求めているもの、伝えたいものだったりが肉声にならない気がしてしまう。考えたつもりでも、笛を吹いていることで気づくことには勝てないし、現場には10倍、20倍も情報があると思っています。そこに直に触れていくこと。そうでなければ、個人も組織も、バスケットという競技も成長が鈍ってしまうんじゃないかという思いがあります。誰がどういう仕組みを作るにしても、現場が一番大事。プレーヤーファーストも大事だけど、ファンファーストが一番重要なのかなと、僕としては思っています。その意味で、いつまでも現場の感覚を忘れたくないですね」。

 41歳と言えば、審判としては現役バリバリ。そのキャリアからJBAでもFIBAでも要職を任されているが、本当は“笛を吹きたい”という気持ちが溢れているようだ。「これが完成品だ」という舞い上がった感覚は決して持たず、ますますレフェリングを追求する姿のまま、グレーのレフェリーシャツに身を包んだ姿を見てみたいと思った。