愛し愛され地元に根づくクラブへ
福島、茨城のマイルストーン

2020年02月12日



文:吉川哲彦/写真:B.LEAGUE

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 バンビシャス奈良とスポンサー契約を結んでいた大手製薬会社がその額を増額し、クラブの経営難が解消される見込みとなったことは記憶に新しい。しかし、B2からB3に舞い戻った八王子ビートレインズがB.LEAGUE準加盟の資格を取り消されたのも話題となったばかり。B.LEAGUEで経営面の問題を抱えるチームが後を絶たないことも事実だ。

 その1つが福島ファイヤーボンズ。昨年11月の決算発表で、前年期はB.LEAGUE参入後初めての黒字決算となったものの、債務超過については解消のメドが立っておらず、これをクリアできなければ来シーズンはライセンスの規定によりB2で戦う権利を失うことになる。

逆境を跳ね返す独自スタイル
 そんな状況下にあっても、現場の選手とスタッフが勝利を目指して戦う姿勢が変わることはない。苦しい台所事情を言い訳にせず、森山知広ヘッドコーチはそれを逆手に取った戦略でB2リーグを戦っている。

 「僕らはトランジションを仕掛けていくスタイルで、日本人選手が果敢にアタックしてファウルドローンを取ること、どれだけインサイドに侵入できるかを掲げてやってきている。日本人選手の活躍で勝ちたいんですよ。僕らのような地方のクラブは、予算の側面もあってなかなか選手が揃わない。他のチームから出場機会を求めて来た選手の良いところを引き出しながら勝ちたいんです。自分たちの予算の規模に見合った中でどうやって勝っていくかと考えた時に、やはりチームで戦うスタイルしかない。全員がそれぞれの役割を果たす姿を多くの人に見てもらって、『福島ってちょっと侮れないよね』というチームでありたいと思うんです。ビハインドを背負ってもワンチャンスあるんじゃないかという、最後までワクワクしてもらえるようなスタイルでやっていきたい。それがチームにとっても選手にとっても成長につながるし、評判になってお客さんが増えてくれればと思います」

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 福島はB2リーグ2シーズン目の2017‐18シーズンに38勝22敗という好成績を挙げている。54勝と他を圧倒した秋田ノーザンハピネッツには及ばなかったものの、東地区では2位という立派なものだった。そのオフに主力が他のクラブにあらかた引き抜かれてしまったが、森山HCは「それはしょうがない」と言う。決して厚くない選手層でも、一定の結果を残すことができれば良いリクルートにつながるからだ。

 「選手間で『福島に行けばプレータイムを貰える』という印象を持ってもらえるとリクルートしやすくなります。実際、ここ2年くらいでいうと『福島でプレーしたい』という声を選手伝えに聞くんです。給料が下がってでも来たい、ここでプレータイムを確保してもう1回勝負したいと。初年度は狩俣昌也(シーホース三河に移籍、現滋賀レイクスターズ)がいて、菅野翔太が三遠(ネオフェニックス)に行ったり、友利健哉が茨城(ロボッツ)に行ったり、ここで活躍した選手がビッグクラブに移籍していることは、このクラブの価値だと思うんです。今いるメンバーもそうなってほしいし、そうなるように細かいことを練習でやってきている。それがこのクラブの規模に合っているのかなと思います」

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 森山HCがそういう考えに至ったのは、クラブの経営事情だけではない。選手としての実績がなく、ゼロから下積みを重ねてヘッドコーチの地位を手にしたからこそ、選手と、そしてクラブとともに歩みたいという想いがあるのだ。

 「みんなが一緒に成長していくスタイルのクラブが、リーグの18クラブの中に1つくらいあってもいいんじゃないかと思うんですよ。オーナーシップが代わって、お金のあるチームが強化していく流れが今あると思うんですが、それがないクラブが特色を出して、そこに一石を投じることも必要。その中で、8位でもいいからプレーオフに行きたい。虎視眈々と狙いたいと思います」

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苦境を脱し、次なる目標はB1定着
 そんな森山HCにとって良い刺激になっているのが、同じ東地区で戦う茨城だ。NBL時代に一度は運営会社が破綻したところから再生し、現在は施設や環境もB2トップクラスの充実度を誇るまでになった。昨シーズン終盤に完成した『アダストリアみとアリーナ』は、B1基準を満たす5,000人規模のアリーナ。2月1日の対戦後、森山HCは茨城について「戦力の充実、環境面も含めてクラブの目標になる」と語っている。

 「情報発信を工夫されていて、水戸を中心に活性化されているし、明確に地域と一緒に進んでいるということを外からも感じられます。都市部でない地方のクラブとして、企業を巻き込んでいろんな取り組みができていることは参考にしたい。僕らも今後新しい経営陣になったり、新しいスポンサーがついたりというきっかけをつかんだ時に、より地域に根差してファイヤーボンズを知ってもらう努力をしないといけない。それによって選手のモチベーションも上がると思うんです。こんなアリーナがあれば選手は頑張るだろうし、それを当たり前と思わずにもっと頑張ろうとなるとサラリー以上の活躍にもつながる。クラブも選手も良い循環で回っていくというイメージがあります。こういうクラブを目指さないといけないということは、このアリーナに来ると毎回思いますね」

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 森山HCも言うように、他のB2クラブにとって手本となる存在の茨城だが、前述の通り過去には経営破綻を経験するなど、今の環境を容易く手に入れたわけではない。その歴史をすべて知るのが、現在アシスタントコーチを務める岩下桂太。設立時からクラブに関わってきた岩下ACは、これまでマネージャーや通訳、ヘッドコーチ代行、果ては会場設営まで、できることは何でもやってきたとのこと。そのことが、クラブだけでなく今の自身を形成してきたという。

 「コーチングをずっと勉強してきた中で、その舞台がここにあるということだけがありがたかったですね。今と比べるとだいぶ厳しい環境ではありましたが、その中でもひたむきにやらなきゃと思っていました。当時のどん底を見ているので、それは間違いなくメンタルの強化につながりましたし、あの頃を知ってるからこそ、今のあらゆる環境のありがたみをひしひしと感じます。
 僕はこのチームで成功したいという想いがとても強い。このチームと一緒に、茨城を盛り上げながら強くなっていくことでロボッツに関わるすべての人が幸せになれる、それに貢献したいんです。当時の人はみんないなくなっちゃいましたし、社長も代わりました。その中で自分にも変化のチャンスはあったんですが、やっぱりこのチームと一緒に成長したいんです」

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 観客動員が2ケタの試合もあったところから常時3,000人以上の動員を目指せるようになった点について、岩下ACは「誇らしい」と語る。しかしながら、B1昇格という目標がまだ果たされていないのも事実。フロントの努力に現場が報いられるかどうかが、今の茨城に求められている。「福島は敵なんですが、同じバスケットに関わる仲間として悲しいというか複雑です」と神妙な面持ちで語る岩下ACにとって、B1昇格はあくまで通過点に過ぎない。

 「秋田(ノーザンハピネッツ)はもともとB1にいたクラブですし、今までB1に昇格して残留できたクラブはまだない。難しいんですよ。でも、多くのB2クラブに希望を与えるという意味でも、我々が定着して歴史を作らないといけない。千葉ジェッツもbjリーグ時代からNBLにかけてなかなか勝ち星が上がらなかったですが、今は天皇杯優勝の経験もある。第2の千葉を目指したいです」

 コーチとしての職責を超え、あらゆる業務をこなして成長してきた岩下ACの姿は、福島・森山HCにも通ずるものがある。「僕自身ノンキャリアで、福島には拾ってもらったと思っている」という森山HCは、在籍4シーズン目となる福島に自身のキャリアを捧げる覚悟もできている。

 「将来的にはGMにもなりたいですし、いろんな面でバスケットに携わりたい。できる範囲でイベントにも積極的に出ていくことを昨年くらいから始めて、行政とも提携できたり、足場はできてきました。2026年の新しいライセンス基準に対してどこを目指すのかという方針も出さないといけない中、自分がヘッドコーチじゃなくても経営や運営に携われるように、いろんなクラブの活動を見ながらフロントにアイデアを出していきたい。我々には震災を機に立ち上がったクラブとしての責任もあるし、子どもたちに夢を見せるクラブにならないといけないんです。本来であれば成績面でクビを切られてもおかしくないと思う反面、ここでやれるだけやりたいという気持ちも強い。選手に今以上の自覚を持たせることができればもっと良くなると思うし、チームとフロントの潤滑油になれるコーチでありたいと思います」

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 2月1日の対戦では、福島が最初の5分で5‐17と劣勢に立たされながらも挽回し、4点届かなかったものの最後まで粘ってみせた。這い上がる姿勢を示したコーチ、選手の心意気がクラブ全体に浸透し、茨城のように成長することを願ってやまない。