2シーズン棒に振った宮崎恭行が
Fイーグルス名古屋で目指す頂点

2020年02月07日



文:hangtime編集/写真:B.LEAGUE

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 B.LEAGUE 2019-20シーズンは39試合を消化し、レギュラーシーズンの約2/3を終えた。現在のところ、Fイーグルス名古屋は20勝19敗でB2中地区3位。同地区の1位は信州ブレイブウォリアーズ(32勝7敗)で、2位には西宮ストークス(26勝13敗)がつけている。なんとか上位に食らいつきたいFE名古屋だが、プレーオフ進出を果たすには、ワイルドカード2枠の争いも意識しなければならないのが現状だ。

 そのワイルドカード争いだが、東地区の茨城ロボッツが23勝16敗で一歩リードし、西地区3位の愛媛オレンジバイキングスが20勝19敗。その下の順位を見ても、東地区の青森ワッツ、中地区の東京エクセレンスが18勝21敗、西地区のバンビシャス奈良が17勝22敗で続きまだまだ予断を許さない。

MVP受賞、ベスト5の常連
 FE名古屋と言えば豊田通商株式会社のバスケットボール部が母体で、創部は1957(昭和32)年。1988年に日本リーグ2部に参戦して以来、トップリーグの下部リーグに所属し続け、B.LEAGUE以前は5回の優勝を果たしている。

 宮崎恭行は高校を卒業し、就職+バスケットを意識して社会人生活の第一歩に選んだのは、当時、実業団の地域リーグで強かったアイシン・エィ・ダブリュ株式会社。2年後にbjリーグがスタートするタイミングで、バスケットに軸足を移そうとしたが、その際豊通のバスケット関係者から声を掛けられたのがきっかけで豊通への移籍を決めた。2006年からチームに所属し、14シーズン目を戦うベテランだ。

 入団したシーズンからベスト5の常連になり、チーム優勝に大きく貢献。MVPも連続受賞している。170㎝と小柄ながら3Pシュートやドライブで得点を量産し、強気のゲームメークをするチームの大黒柱だった。「……だった」とあえて過去形にしたのには理由がある。今の彼のプレーぶりは、当時と少し変わってきたからだ。

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B.LEAGUEがモチベーションに
 今シーズン、再びキャプテンを任されている宮崎はここまで36試合に出場し、スタメンはゼロ。1試合平均のプレータイムは13:32で、得点は5.8点、アシストは0.8本……かつての彼を知っているからこそ、平凡な数字に感じるが、本人にとってはそうではないようだ。

 「今シーズンもキャプテンをやっていますから、チームをまとめるというのが大事な役目です。コートに立って、プレーで見せることも必要でしょうが、それ以上に声を掛けてチームをまとめることを意識していますから。試合に出られなくても自分の役割があるので、そこに徹しています」と、数字へのこだわりはない。

 移籍1年目からスタートを任され、その活躍ぶりは前述の通り。その後も優勝争いを続けるチームにあって、宮崎自身満足できる、十分なスタッツを残してきた。

 そして、いよいよB.LEAGUE開幕へ──バスケ界が大きく変化しようとする時、宮崎自身にも大きな変化を受け入れざるを得ない出来事が起こる。

 「NBDLの最終シーズン(2015-16)が開幕してすぐでした。左膝の膝蓋腱断裂と前十字靭帯断裂、半月板損傷、内側側副靭帯損傷を負いました。だから、そのシーズンと、B.LEAGUEの最初のシーズン(2016-17)はスタッツがないんです」

 両脚の大ケガで、しかもB.LEAGUEが華々しくスタートしたにもかかわらず、歩くことさえできない自分。さぞや落ち込んだに違いないと思ったが、「B.LEAGUEに移行するタイミングだったので、気持ち的にはまったく折れることなく、外側から見ていても、完全プロ化になったリーグ、そのコートに絶対に戻るという気持ちが強かったです」

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 モチベーションは維持できていた。プレーはできなくても、強い気持ちでリハビリに取り組んだのだろう。復帰に向けて、一日一日を大事に過ごした。

 「モチベーションは逆に上がりました、なんせB.LEAGUEになりましたから(笑)。リハビリのスタートは歩くことからでしたが、できることを1つずつやるしかない、そうアドバイスされていたので、それしかないですね。復帰してからのことを考えると、瞬発力や体力、スピード、ジャンプ力が戻るかどうか……それらを持ち味にプレーしてきましたが、リハビリ中から同じレベルまでは戻らないと言われていました。
 “じゃあ何ができるんだ”と、ずっと考えていました。シュートは以前から得意でしたし、それをひたすら極めよう、そう心に決めたんです。指示されたリハビリをやりながら、シュート練習ができるようになったら、リハビリの後は必ずシュートを打ちまくる、そんな日が続きました」

プレータイム37秒、3Pシュート1本
 モチベーションは上がり、懸命にリハビリに取り組む毎日。それでも、本当に復帰できるのだろうか……そんな不安に襲われても不思議ではないはず。

 「いや、そういう気持ちになったことはなかったです。ただ、いざ復帰して実戦のコートに立ってみたら、ドライブなどのプレーの際、少し恐怖心が出ましたけど」

 ようやくB2のコートに立ったのは2018年2月18日、アウェーの信州ブレイブウォリアーズ戦。わずか37秒の出場だったが、それでも得意の3Pシュートを1本決めた。そのシーンはよく覚えているという。

 「実はその遠征に帯同する予定ではなかったんですが、1人ケガ人が出てしまい、その代わりに帯同することになりました。ですから、その時は出場するというのは想定外というか、まぁ急に(交代の指示が)きたので……3Pシュートを決めましたが、そこは準備をしてきていましたから、特別な感情は特に……」

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 さぞかし感動的なシーンを想像していたが、準備に抜かりはなく、急な出来事だったとしても果たすべき仕事をまっとうしたということだろう。ところが、こんなことを明かしてくれた。

 「そのシーズンのプレシーズンマッチで、1分ぐらい出場する機会がありました。その時はさすがに目が真っ赤になったのを覚えています。本当の意味で復帰を果たした瞬間だったので」

 そのシーズン、4月以降はプレータイムが10分を越えるようになった。翌2018-19シーズンこそ本格的な復帰を目指すことになった。

 「感覚としてプレーが“戻ってきたな”という気持ちと、これまで自分が信じてやってきたことが、ようやく実になったかなと感じました」と、さらりと言葉にしたが、この年のレギュラーシーズンで59試合に出場し、平均のプレータイムは16:19、平均得点は6.6点で、3Pシュートの確率は42.7%を記録し、なんとB2のトップ。さらにフリースローも90.5%を記録して1位だった。

プレーすることで成長を実感
 ここまでの復活劇を、本人はどう捉えているのだろうか。離脱中、自分がいないチームをどう見ていたのだろうか。

 「ケガをしてからは、もう完全に自分がチームの柱ではなくなったことを受け入れつつ、自分の役割や求められることを担いながら、チームに貢献できるように頑張っていこうと考えていました。(プレータイムが)1分だろうが5分だろうが構わない。たとえ10秒だろうが、“自分ができることだけをやり切ろう”と吹っ切れてました。それが良かったんだと思います。遅れてですけど、チームに上手く合流することができたという手応えはあります」

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 20歳から在籍するチームでさまざまなキャリアを重ね、自分自身の成長を実感しているという宮崎。ケガの前と後では、立場が変わったこと、役割が変わったことを素直に受け入れることができた。

 「それはもういろんなポジションを任されてきたので視野が広がりましたし、さまざまなことがこなせるようになりました。最初はポイントガードでしたが、2年目にはオーエスジーからガードの松藤(光生)さんが入ってきて、2ガードをやったり、シューティングガードもやらせてもらったりしました。若い時に3年ぐらいキャプテンをやらせていただきましたが、それはバスケットだけではなく、人としての成長にもつながったと思います」

 ケガはしないに越したことはないが、大ケガを負ってもそれを受け入れ、さらなる成長につなげたのは、本人の努力の賜物であり、周囲のサポートがあったからに他ならない。

 「そうですね、僕個人としては身体能力など以前のように完全には戻っていませんが、バスケット選手として、チームプレーの中での1人の選手として受け止めれば、今のほうが上手くやれているのかな、というのはありますね」

与えられる役割に全力を尽くす
 今回、話を訊いたのは1月26日のアースフレンズ東京Z戦の後。チームは連勝し、前日は30:59のプレータイムで3本の3Pシュートを含む16得点の活躍だった宮崎だが、この日は延長戦だったものの、プレータイムは11:11で、得点はゼロだった。その起用法について川辺泰三ヘッドコーチに確認すると、「宮崎の身長だとリバウンドやポストアップされた際のディフェンスでやられることがありました。彼はチームで一番シュートが入りますし、一番勝負強い、良い選手です。ただ、今日はトビ(飛田浩明)が絶好調だったし、宮崎のところのプラスマイナスで起用法を判断しました」とのこと。

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 ゲームの流れやその日の選手のコンデイションなどを見極めながら、勝機を確実につかむのがHCの仕事だとすれば、その起用法に納得し、自分の仕事をまっとうするのが選手の仕事。「コートでは常にハドルを組んで、一番いいエナジーを与えてくれるのが宮崎」(川辺HC)ということを承知しており、キャプテンとして頼りがいがあるのは誰もがわかっている。本人も与えられた役割は理解しており、前述の言葉につながり、数字へのこだわりがないことがわかる。

 大ケガから復帰を果たし、高いモチベーションを維持し、強い信念でプレーを続ける宮崎。新任の川辺HCを信頼し、チームの仲間と一緒に目指すのはB2優勝。かつての栄光にしがみつくことなく、新しい歴史をみんなで創り上げようとしている。

 「そこは一番の目標ですから。優勝するまではプレーヤーは辞められませんし、B1でプレーしたいと思っています。それは、前からずっと思っていることですから」

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 ケガによる挫折感、リハビリの難しさ、復帰するまでのドラマティックな筋書き……そんなイメージを持って取材したものの、終始、落ち着いたトーンでの受け答えで、美談を捻り出す必要はなかったようだ。さまざまな出来事を、淡々と振り返るからこそ彼が今、プレーを続ける喜びに溢れ、目標に向かって真っすぐに突き進んでいる姿、心情を感じ取ることができた。レギュラーシーズンは残り1/3。FE名古屋を含めた上位争いは、まだまだ予想外の展開が待っていそうだ。