すべてはトライフープ岡山のために
急造コーチ・比留木謙司の苦悩と覚悟

2020年01月23日



文:吉川哲彦/写真:トライフープ岡山

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 今シーズンのB3は徐々に混戦模様を呈してきた。新規参入の3クラブの健闘も光る中、大きな動きがあったのがトライフープ岡山。まずまずの滑り出しだったにもかかわらず、元安陽一ヘッドコーチが辞任し、開幕から10試合目まですべてスターター出場してきた比留木謙司がアソシエイトヘッドコーチとして指揮を執ることになった。その点については12月末に発行された『hangtime Issue014』でも紹介したが、そこに引用した比留木AHCの言葉をここで詳しく紹介したい。

 プロとしての第一歩を踏み出したばかりのチーム・選手の苦労や、思いがけずチームを率いることになった比留木AHCの心中の一端を察することができるはずだ(取材は2019年12月7日、八王子ビートレインズ戦終了後)。

――シーズンの3分の1を消化して、ここまでの戦いぶりをどう見ていますか?
 「今12勝8敗かな? もったいない試合もありましたが、それも成長のプロセスなのかなと捉えてます。もうちょっと勝率が良かったはずという星勘定はしてましたが、自滅した試合もありますし、やるべきことを共通理解できてない試合もあっての今の成績は、想定の範囲内でもあると思います。取り返しがつかないところではないかなと。

 ヘッドコーチが代わって……なんで自分がやってるんだろうとも思いますが(笑)、バスケット自体は大きく変えてなくて、課題は修正して、伸びしろはもっと伸ばしてという作業をしているところです。約束事もかなり増やしましたし、ディフェンスは特に細かく、練習もすぐに止めて『こうじゃなきゃいけない』というのをすごくうるさく言っていて、選手はそれを表現できるようになってきています。それを40分間100パーセント遂行するのは難しいことであって、できない時間を少なくする努力はできているし、誰が何分試合に出ようが、何点取ろうが関係ないというコンセプトをみんな尊重してくれるので、すごく助かってはいますね」

――今おっしゃった「成長のプロセス」というのは、B3で通用するところと通用しないところがわかって、そこをどうアジャストするかということでしょうか?
 「ウチはプロ経験のない選手が多いです。決められたことを遂行した中で自分たちが思い切りやっていいところ、ゴーサインが出ているところを理解しなきゃいけない。好き勝手にプレーしてはいけないということをこの20試合をかけて学んだと思います。チームの決まりごとやコンセプトがあって、それを自分の欲が出て1人だけやらないというのは、結局毎日一緒に戦って一緒に辛い思いをしているチームメートのことを大事に思ってない、勝利ではなくエゴを最優先しているということになる。そういったことが今はもうないと思えますね。

 最初の20試合は、自分たちがどこまで勝ちを突き詰めないといけないかということが理解できていなかったと思うんですよ。最近言うのは『B3という場所においては、勝たなければあなたたちのキャリアはここで終わってしまうんだよ』ということ。それはスタッフにもうるさく言ってるんです。B3は優勝しなきゃ誰も見ないんですよ、正直。B1のクラブがB3の選手を獲ることなんて、勝たなきゃ絶対にない。勝つことで自分のキャリアをつなげられる。そのためには、チームメートのためにプレーしなきゃいけないということなんです」

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――ゲームの内容で言うと、ここまでハイスコアな展開になってしまうことが多かったと思いますが、ここからはやはりディフェンスを強化したいということになりますか?
 「もちろんそうです。ディフェンスの練習で細かく言ってきたことを、選手たちは戸惑いながらも信じてやってくれていて、この2勝(八王子戦)は自分たちがやってきたことが無駄ではなかったという意味で自信が持てた試合になったと思います。

 実はオフェンスも結構うるさく言ってはいるんですよ。全体的にうるさいというか細かいですね、僕は(笑)。点数は後からついてくるから無理はしなくていい、自分のチャンスがなかったらチームメートに回してあげる、いずれ自分のタイミングは絶対にくる。もっとボールを動かして、チームメートを信じて次のプレーに託しなさいと言ってきた甲斐があって、日本人の選手も20点以上を取った選手が何人もいるんですよ。誰もが自分のチャンスがきた時にステップアップしてチームを勝利に導けるんだという証明になっているし、良い集団になったと思いますね。まさか自分がヘッドコーチになるとは思ってなかったですが、今置かれている状況は、彼らが試合に勝つために僕が持っている経験や知識、情熱で少しでも彼らに良い影響を与えることだと思います」

――ご自身は3x3でトライフープを長く引っ張ってきて、昨シーズンまでB1でプレーしており、覚悟を持って移籍してこられたと思います。こうなるとはまったく予想していなかったとのことですが、開幕からスターターでしたし、プレーで引っ張っていける自信もあったわけですよね?
 「自信があったというか、まだプレーしたいですよ、純粋に。体はいつまでももつものじゃないから1年1年が本当に貴重だし、この歳になるとなおさらです。ただ、クラブのためにできることが何かと言ったら、こういうことになりました(笑)。もうしょうがない、腹をくくるしかないなって」比留木007

――元安さんが辞められるというのは早い段階でわかっていたんですか?
 「想定してたら、たぶん彼にはオファーしていなかったと思います。でも彼も時間と労力をすごく割いてくれて感謝してます。世の中、想定外のことだらけですからね。彼を責めるつもりはひとつもないです。願わくば、彼がダブルワークではなくフルタイムでこの組織に24時間365日を捧げられるような環境や条件を提示できていればとは思います。彼はよくやってくれましたよ。プロチームのヘッドコーチが初めてで、厳しい状況だったと思います。ヘッドコーチというのは何をしたってあれこれ言われるんですよ。みんなから愛されてるヘッドコーチなんて存在しないんです。彼も嫌なことが聞こえてきたりしたこともあったでしょうけど、その中でも最後は自分の壁を破って大きく成長して、良いものを残していってくれたと思います。

 経営状態は悪くないんです。ただ、人事は僕の担当で、チームのことを考えた時にマーケットにそんなに良いコーチがいなかった。それは若いコーチたちに奮起してもらえればと思うんだけど、良いコーチはやっぱり総じて値段が高いか、もしくは引退されちゃってるか。それで、今この選手たちのことを一番わかってて、今までやってきたバスケットをよくわかってるということになったら、消去法で僕がやるしかなかったんですよね」

――また来シーズンは選手に戻りたいという気持ちは?
 「やりたいですね。ただ、体が元に戻るかというのはわからない。体の準備とメンタルの準備というのは、皆さんが思ってる以上に相当なエネルギーを使うので。僕が今トップチームもサテライトもコーチをやっている状況で、その間に他の人は練習してるんですよ。自分が納得できるコンディションやメンタルの状態に戻れる保証はない。でも、戻るつもりではいますよ。まだ選手として踏ん切りはついてないです」

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――今はそこを割り切ってというか、開き直ってコーチをされている。それも「トライフープのために」という覚悟ですよね。
 「代表の中島(聡。選手兼任)と3x3の1年目からずっと一緒にやってきて、メディアや行政、企業が反応し始めて、岡山という土地が持つポテンシャルが予想外に大きかった。『いくところまでいこう。生きるも死ぬも一緒だ』というのは2人で決めたことだったんです。小さいクラブではありますが、盛り上げるのは自分の使命だと思ってます」

――実際コーチ業は大変でしょう?
 「大変ですね。フラストレーションではなく、もどかしさがあります。GM業を始めた時からそうですが、特にヘッドコーチとなると今までと同じ距離感で他の選手と接することができないのが寂しい。

 そういう感情論だけではなく、シンプルにフロントの視野とヘッドコーチの視野、選手の視野って全然違うんですよ。フロントは1年先、3年先、5年先を見る。ヘッドコーチはプレー1つひとつを見るのではなくクォーターを見て、40分間を見て、1週間、1カ月、1シーズンを見るんです。でも選手はその瞬間を見ることが多い。それは誰が悪いとかではなく、みんなそれぞれそこにプライドがあるんです。僕は判断を下す側の人間で、その判断を理解されないことが多いのはGM職やコーチ職の性(さが)なんでしょうね。それはわかっていたので予想外ではなかったですが、しんどいことはしんどいです。

 万全の運営体制ならそれぞれスペシャリストを連れてくればいいんですけど、下のほうのカテゴリーだとどうしてもマルチタスクになるのは仕方ない。それぞれの視野の違いを理解してもらうこと、理解されなくても押し進めないといけないところ、理解しないと心が離れていってしまうところという線引きは組織としてあるので、そこを模索している最中ですね」

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――あとは残り40試合ということになりますが……。
 「もう8個負けてるので、落とせないんですよね。48勝を昇格ラインとして見ていたので、厳しくはなってます。団子状態になってきて、そのラインはちょっと下がるかなとも思うんですが。プレーオフがあったらもうちょっと余裕を持ってできるんですよ。それがないので1試合1試合勝ちにいかなきゃいけない度合いが強まる。我々はサテライトも含めて30人近く選手を抱えていますが、彼らの成長がないと60試合は戦っていけない。そこが難しいところでもあるんですが、もうやるしかないですからね」