“覚悟”を笑顔で覆い隠す
千葉の元気印──田口成浩

2019年10月23日



文:hangtime編集部/写真:B.LEAGUE

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 10月19日、千葉ジェッツのホーム、船橋アリーナには4,590人の観客が詰めかけた。この日の対戦相手、川崎ブレイブサンダースのファンもたくさんいたが、その多くは千葉がお目当て。今シーズン2試合目のホームゲームで、スカッとした勝利を期待していただろう。しかし結果は73‐83で千葉が敗れ、2勝4敗と黒星が先行してしまう。

 それでも3Q終了時点では59‐63と僅差で、リードチェンジ7回という白熱したゲーム展開だった。4Q開始早々、千葉は原修太がレイアップを決め、いよいよ反撃開始かとファンの期待が膨らんだのもつかの間、その後は後手に回ってしまった。このクォーターだけを見ると14‐20で川崎が優位に立ち、とくにリバウンド数は千葉の「7」に対して川崎は「15」。ファウル数は千葉が「6」で、川崎は「1」。その差が出たのがフリースローで、川崎は7/7で得点を稼ぐ一方、千葉はフリースローのチャンスさえなかった。

 千葉ファンにとって不完全燃焼の感は否めず、試合後、観客席からは厳しい怒声が聞こえてきた。天皇杯こそ3連覇しているものの、2シーズン続けてリーグ制覇を逃した分、今シーズンに懸けるファンの気持ちも強いのだろう。B.LEAGUE屈指の観客動員を誇る千葉であればなおのこと、叱咤激励の「叱咤」の声が大きくなるのは当然なのか。選手たちはファンの気持ちを受け止め、最高のプレーに徹するのみ。どんな状況をも直視し、たとえ罵声を浴びせられようとも、それを受け止める覚悟はできている。

 その内のひとり、今シーズンの千葉にあって人一倍覚悟を決めているであろう(勝手にそう想像したのだが)田口成浩に試合後話を訊いた。

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 というのも、ここまでの6試合すべてスタートで起用されているからだ。昨シーズン、スタートは1試合のみ。持ち前の明るさと、ここ一番で決める3Pシュートに定評がある田口。劣勢挽回のため、あるいはエナジーを必要とする時コートに飛び出す姿が定番だった。しかも昨シーズンは、同じポジションに石井講祐(現サンロッカーズ渋谷)という、職人気質の選手がいた。結果が良ければファンは「激励」を送るが、チームとして調子が上がらなければ、何か変化した部分を気にしてしまうもの。千葉の変化はスタートが代わったところがわかりやすい。そこで彼の心境を確認したくなった。

──今シーズンは開幕からスタートを任されています。ご自身の受け止めというか、お気持ちを聞かせください。
 「う~ん……スタートで起用していただき、自分としても『最初に出る5人』ということで責任を感じています。もちろん、みんながスタートで出たいと思っているわけですから、その中で最初に出るということで、100%自分の力を出す、それを常に考えています。ただ、まだまだ『自分らしいプレー』が発揮できていないというのが自己評価ですので、足りないもの……ディフェンスであったり、そういったところをチームのためにもっと練習してプレーするというのが今の課題です。まだまだですね」

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──ベンチから出て行くのと、スタートで出ていくということで準備の仕方の違いはありますか?
 「スタートの時は常に相手のエナジー、フィジカルに負けないこと。ファウル覚悟ではないですけど、当たり負けしないように心がけています。そういう部分はマカオで行われた『テリフィック12』※1でも経験してきました。フィジカルに戦うという姿勢が重要だと思います。ベンチスタートの場合は試合の状況をよく見て、誰がのっているとか、誰を抑えなければいけないかとか、自分はどういうプレーをしなければいけないかなど、ゲームの流れを読みながら、自分らしさを出すところに違いがあると思います」

──開幕前、「スタートで行くぞ」と大野篤史ヘッドコーチから、具体的に指示を受けていたんでしょうか。
 「とくになかったです。どんな状況、どんな起用法でも準備はできています。ただ、スタートで起用されるというのは(昨シーズンとは違う起用法なので)、正直予想外というか……。それでも『スタートから出たい』というのが率直な気持ちで、そのためのアピールはオフからの練習やプレシーズンゲームからできていたからこそだと思います。毎試合毎試合勝負で、それは相手に対してもそうですが、チームメイトに対しても負けたくないという気持ちを前面に出すよう心掛けていました」

──開幕前、「このアピールが上手くいった」と手応えを感じたところはありますか?
 「正直、開幕3~4週間前までは『なんでだろう、上手くいかないな』って考え過ぎたところがありました。開幕1週間前にもう一度、『自分はどういうプレーヤーなんだろうか』と自分自答した際、思い切りの良さや積極的なシュートが持ち味なんだから、そこをアピールしようと思い、それが上手くできたと思います。練習中でしたが手応えというか、ディフェンスも少しずつアピールできたかな、と」

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 この日川崎に敗れた試合、田口は25分32秒コートに立ち、3Pシュートは1本しか決められず7得点に終わった。満足のいく結果ではなかったはずだが、記者の質問にていねいに応える姿勢は変わることがない。時には笑顔を交えながら、常に前向きなコメントをするのは、プロとして立場をわきまえ、どんな結果も受け入れる“覚悟”があるからに他ならない。

 今シーズンの田口について大野HCは、「もっとシュートを打って欲しいですが、打つべきシュートのためのパスが来ないということで、彼自身フラストレーションを感じているかもしれません。セットアップして(彼に)シュートを打たせるプレーはありますが、そこはスカウティングされるので、トランジションの中でシュートを狙うようにすること。田口が『シュートを打つ』というメンタリティも大事ですが、(チームとして)彼を見つけてチャンスを作るメンタリティも必要だと思います」と、スタートで起用する期待を明かす。

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 指揮官の期待に応えるべく、自分らしいプレーを追求する彼に、少し意地悪な質問をすると、それでも笑顔を交えながら本音を隠すことはなかった。

──石井選手が移籍し、その役割を担うような形になりますが、ファンや周りの声にプレッシャーを感じることはありませんか。
 「自分は自分ですから(笑)。昨シーズンは石井さんという素晴らしい選手がいて、見習うものはたくさんありました。一緒に練習して(石井さんを)見習いながら、盗みながら、自分なりのプレーに徹するというのを心掛けてきました。昨シーズン、盗めたものはありましたが、今シーズンはもう一緒にプレーできませんから、自分は自分でしっかりプレーをし、『田口がいるから大丈夫!』と言っていただけるようになりたいと思います」

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 地元の秋田ノーザンハピネッツでプロ生活をスタートし、“おいさー!”の雄叫びとともにスターダムにのし上がった田口は、2017-18シーズンを最後に相当の覚悟で千葉へ移籍した。1年目の昨シーズンは、その覚悟を笑顔で覆い隠し、ベンチスタートの役割を全うした。2年目の今シーズン、秋田でそうだったように今度は“千葉に田口あり!”と評されるような活躍を心に期している。その覚悟は潔く、これもまた笑顔で覆い隠しながら、さらなる高みを目指していく。

 23日はアウェーとなる秋田での試合が待っている。かつて慣れ親しんだアリーナ(CNAアリーナ☆あきた)で、相手ブースター「クレイジーピンク」からブーイングを浴びるような大活躍ができるだろうか。そうなれば、同時にチーム浮上のきっかけにもなるはずだ。

※1:「テリフィック 12」 はアジアリーグのプレシーズン中のメイントーナメントで、国際バスケットボール連盟(FIBA)公認。今年は日本から宇都宮ブレックス、千葉ジェッツ、新潟アルビレックスBB、琉球ゴールデンキングス(前回優勝)の4クラブが出場した。