R・グレスマンバスケの“潤滑油”
愛媛オレンジバイキングス、笠原太志

2019年10月21日



文:川西祐介/写真:B.LEAGUE

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 愛媛オレンジバイキングスは、2017-18シーズンからリチャード・グレスマンヘッドコーチ体制となり、今季3シーズン目を迎えている。

 グレスマンHC就任1年目の愛媛は攻撃的なバスケを展開し、チーム平均得点はB2リーグ1位の84.1点、33勝27敗と勝率5割以上を記録した。これはチームの前身、大分ヒートデビルズ時代、bjリーグでの2006-07シーズン以来、11シーズン振りの勝ち越しだった。しかし、昨シーズンは20勝40敗と成績を落とし、今シーズンはあらためて上位を目指す戦いに挑んでいる。

 そのグレスマン体制で鍵を握るプレーヤーが、笠原太志だ。笠原はB.LEAGUE初年度の2016-17シーズンより愛媛に在籍し、今季4シーズン目。グレスマンHCの下、今季を含め3シーズン、出場したすべての試合でスターターを任されている。1年目は58試合、昨シーズンは全60試合、今シーズンもここまでの11試合全部だ。さらに、平均出場時間は3シーズン通して32分以上を記録しており、いかにグレスマンHCが笠原を信頼しているかがわかる。

チームが勝つために、変幻自在のプレースタイル
 グレスマンHCに笠原について訊くと、「PGからPFまで4つのポジションができること、優れたペリメーターディフェンダーであること、そして常に正しい判断でプレーできること」を挙げ、「太志が出ている時間は、彼に任せることができる。どのコーチに聞いても、彼をゲームから外すのは難しいと答えると思います」と信頼を示した。

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 笠原は、グレスマンバスケでの自身の役割を、「みんなにボールを供給すること、悪い流れの時にボールを動かすなど、『潤滑油』ですね」と言う。実際試合でも、PGがプレッシャーを受けてボールを運べない時には代わりにプッシュし、オフェンスの流れが悪い時には、ボールを受けに行って逆サイドに振るなど、言葉通りのプレーを見せる。オフェンスにポイントがあるグレスマンバスケにおいて、ボールをスムーズに動かすというのは生命線。それだけに、笠原のプレーが重要なのは言うまでもない。

 「チームが勝つことが一番大事。どうすればチームが上手くいくのか、ヘッドコーチがやりたいバスケを遂行できるのかを考えた結果が、今のプレースタイルにつながりました」と、現時点でのプレースタイルはグレスマンバスケ仕様なのだ。「愛媛に来る前のバンビシャス奈良では、遠山向人HC(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ アソシエイトコーチ)にディフェンスを1から10まで教わって、ディフェンシブにプレーしていました。その前にいた、TGI D-RISEではオフェンスメインでした」と、在籍するチームで求められるプレーを遂行してきた。

 チームが必要としているからといって、プレースタイルを変えることは簡単ではないはずだが、「チームが勝つためには、ということしか考えていないので、プレースタイルが変わっても、違和感はないです」と、彼には自負がある。

 この3シーズンのスタッツを見ると、2017-18シーズンが6.8点、5.3リバウンド、3.6アシスト、1.2スティール、2018-19シーズンが7.6点、4.4リバウンド、4.4アシスト、1.3スティール、今シーズン11試合では、7.9点、4.4リバウンド、2.1アシスト、1.5スティールを記録している。突出したものではないかもしれないが、どの項目もまんべんなく数字を残しているのが特長であり、その時その時に、チームが勝つために必要なプレーを正しく選択した結果がスタッツに出ている。

“悔しさ”も胸に、恩ある愛媛のために
 その笠原だが、昨シーズン終了後、契約更新が早かったことを訊いてみた。「奈良を出た時に一度引退を考えていて……それを考え直した時に拾っていただいたのが愛媛。グレスマンHCの1年目は勝率5割を超えたのですが、昨シーズンは大きく負け越してしまった。このまま恩のある愛媛を出ていくことはできないなと思ったので、すぐに残ることを決めました」というのが、その理由だ。

 グレスマン体制3シーズン目の今季、1シーズン目の成績を上回るためには、「ヘッドコーチは、とくにリバウンドを課題に挙げています。勝った試合は、リバウンドを相手よりも多く取っている。そこは昨シーズン終盤からずっと取り組んでいて、今シーズンはより厳しくやろうと言っています。また、ヘッドコーチのバスケは選手に判断を任せてくれる部分が多いので、その場その場の判断を正しくできれば、1年目の成績は間違いなく超えられる」と自信をのぞかせる。

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 今シーズンの躍進のためにも、地元愛媛出身でオールラウンドな成績を残す俊野達彦と、B2で毎シーズン得点を量産するチェハーレス・タプスコットが戻ってきたことは大きな力になるはずだが、これには「ふたりがいなかった昨シーズン負け越してしまい、ふたりがいなくても勝てるという証明ができなかったことは、正直悔しい思いもあります」と、素直な気持ちを明かした。

 しかし、「戻ってきてくれたことには感謝しています。俊さんもタプスコットも得点力があって、バスケIQも高い選手ですから、チームにプラスになるのは間違いないです。俊さんはキャプテンシーもあって、チームのコミュニケーションも図ってくれる。ふたりとも必要な選手です」と、やはり期待は大きい。

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 笠原とともに、苦しかった昨シーズンを愛媛でプレーした、楯昌宗と高畠佳介については、「楯さんは、どんな時でも声をかけて、チームを引っ張ってくれます。高畠とは試合中も試合後もよく話しています。いつも冷静に物事を判断して、自分に対しても的確なアドバイスをくれるので、高畠の存在は大きいですね。自分も含めて、3人が残ったのはチームにとってすごくプラスだと思います」と頼もしい存在のようだ。

 さらにチームは、今夏のワールドカップでプエルトリコ代表に選出されたセンター、クリス・ブレディを福島ファイヤーボンズから、3Pシュートや思い切りのいいドライブを見せる伊集貴也を島根スサノオマジックから、帰化選手のプイ エリマンを東京サンレーヴスから獲得した。加えて、松井陸と速井寛太のふたりを練習生から引き上げ、戦力は充実している。

高みを目指して、一歩ずつ
 今シーズンからレギュレーションが変わり、出場枠が増えたプレーオフに向けては、「出場枠が増えたというのは、率直にチャンスだなと思っています。プレーオフの緊張感はレギュラーシーズンではなかなか味わえないものですし、そういう試合でプレーするというのは、プレーヤーとして成長できる良い機会になります。それに、地元のチームがプレーオフに出たとなれば、愛媛の街も盛り上がる。そういう意味では、出場枠が増えたのはすごくいいことだと思っています。いきなりB1昇格という目標は難しいのはわかっています。目先の目標は小さくても大事だと思うので、まずはプレーオフ進出。その次にプレーオフのホーム開催があり、最終的な目標として、‟B1昇格“というステップアップができればいいと考えています」。

 グレスマン体制1年目、オフェンシブなバスケでインパクトを与えた愛媛。大きく負け越し悔しさを胸に刻んだ2年目。そして3年目を迎えた今シーズン、チームのさらなる飛躍の鍵は、笠原太志が握っている。

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