“扇の要”──
正中岳城のキャプテンシー

2019年10月10日



文:hangtime編集部 写真:B.LEAGUE

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 10月5日、3連覇を目指すアルバルク東京の2019-20シーズンが始まった。開幕戦の相手は昨シーズン、中地区を制した新潟アルビレックスBBで、チャンピオンシップ・クォーターファイナル以来の対戦となる。A東京は開幕直前に馬場雄大がNBA挑戦のためにチームを離れ、ザック・バランスキーがケガで戦線離脱、外国籍選手3人のうち2人しかベンチ登録ができないため、この試合は9人で臨んだ。

 しかも、シーズン前は竹内譲次、田中大貴、安藤誓哉の3人が日本代表として『FIBAワールドカップ2019』(@中国)を戦い、チームも『FIBAアジアチャンピオンズカップ2019』(@タイ)に参戦。見事、優勝を果たしたものの6日間で5試合というハードスケジュールをこなしてきたばかりで、難しいコンディションだったことは容易に想像できる。アリーナに集まった大勢のファンにとって心配の種はいくつもあったが、それは杞憂だった。

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 試合が始まれば、いつものように一丸となって戦い、それぞれが任された役割、プレーによってチームの勝利に貢献する。周りが感じた心配は自分たちも承知の上で、しかるべき準備を整え、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチのバスケットを遂行するのみ。連勝で第1節を終えた。そんなチームにあって正中岳城は、長くキャプテンの重責を担ってきた。キャリアを重ねるごとに求められるものは変化したとしても、コート内外でその存在感は変わることがない──開幕戦勝利の後、彼に話を訊いた。

──いよいよ開幕を迎えました。
 「代表選手が揃ってからも練習の日程が割けなかったですし、アジアチャンピオンズカップもありましたから、10月いっぱいかけてチームを作り込む作業に集中していこうと確認し合っています。目の前の試合に勝たなければいけませんが、自分たちがやるべきことにフォーカスし、しっかりやり切ろうと意欲を持っています。今日(87‐59で開幕戦勝利)は良い部分もたくさんありましたが、まだ初戦。粘り強く戦えたところはあるので、これを重ねていきたいと思います」

──チーム生え抜きとして13シーズン目を迎えました。トヨタ自動車からアルバルク東京まで、脈々と受け継がれている伝統、チームの強みをどのように感じていますか?
 「入団した2007年、チームは前年に優勝していました。僕のルーキーイヤーはディフェンディングチャンピオンとして迎えるシーズンだったんです。ですから、勝つことやタイトルを獲りにいくことに対して強い気持ちがありました。対戦相手はチャンピオンを倒しにきますし、僕らが負けた時の相手チームの喜びようを見ていたので、そうならないために『絶対に勝つ』。勝つために何が必要になのかを常に考え、取り組んできたチームだと思います。毎シーズン、絶対に優勝するんだという気持ちを全員が共有し、努力し続けているチームだからこそ、下馬評で優勝候補に挙げていただけるチームなんだと思います。ここ2シーズンは連覇という結果が出ていますが、それは優勝しようが逃そうが、いつも自分たちは勝ちにこだわり、そのための準備を怠らない。そういう選手が集まり、そういう雰囲気をチーム全体で作り出していくチーム。それが伝統であり、強みではないでしょうか。
 今は試合前に、『今日の試合は……』と、あえて口にすることはありません。それまでに準備をして、全員がどういう気持ちで臨まなければならないかはわかっている、そういうチームが自分たちだと思っています」

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──3連覇を目指すシーズンです。難しいこともあると思います。
 「3連覇がどれだけ難しいか、それは僕自身経験がないからわかりません。まずは『ちゃんとした』シーズンを送ること。『ちゃんとした』というのは、一戦一戦勝ちにこだわるという意味で、そのためにはどういう準備をし、チームとしていかにひとつになっていくか。そのために何を成していかなければならないのか。そういう細かなところまで、こだわりを持ちながら質を上げていく姿勢が、自分たちの強みになります。これはどのシーズンもずっとやり続けていることで、結果が出ようが、負けていようがシーズンに向けての準備を怠らないこと。チームとしても個人としてもそうですし、選手やコーチだけではなく、フロントも含めたスタッフ全員です。今シーズンもそれはできていると思います」

──3連覇に懸ける想いはいかがでしょうか?
 「確かに3連覇というのはありますが、どのシーズンも独立しているものだという感覚で捉えています。ルカHCも、『自分たちが過去に成し遂げたものは誰にも奪われないから、自分たちはそこを見る必要はない。では何を獲りにいくのか……次のタイトルに対して意欲と気概を持って、プロセスを重ねていこう』とよく言います。その気持ちが重要で、今日の開幕戦も同じです」

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──先ほど、「ルーキーシーズンにチャンピオンチームの雰囲気に触れた」という意味のお話がありました。それは、今の自分にプラスになっていますか?
 「他のチームを知りませんから、プラスになっているのかどうか。ただ、開幕を迎えた時にはどのチームも『優勝を目指す』と言えますし、どこが優勝するかはオープンな状態です。でも、本当にどのチームにも優勝するチャンスがあるかと言えばそうではなくて、徐々に絞られます。その中でも我々は勝ち残れるだけの戦力がありますし、そういうチームの一員でいられたわけですから、それはありがたいという気持ちです。自分を保つのは厳しい環境(良い選手が集まりますから)でしたが、磨き合ったり、競い合ったりしながら、“チームのためにやり切ろう”というポジティブなチームで、本当にありがたいことだと思います」

──好成績を残し続けるチームですが、毎年のように新しい選手が加入してきます。キャプテンとして心掛けていること、気をつけていることを教えてください。
 「僕が彼らに『何かをしてあげる』ことはありません。選手にとっては環境が大事だというのはわかっていますから、誰もがポジティブなマインドになるように心掛けています。新加入だからやりづらいことはないと思います。個人の良さがより多く発揮できるように、というのは心がけたいですね。誰もが、自分がやりたいようにプレーできるとは限りません。チームの勝利を目指す中で、個人の良さの出し方を見つけていく。それが選手の評価につながりますし、そういうところにチームがきちんと寄り添えるか、個人の良さを発揮させる状況を生み出せるかが重要なんだと思います」

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──チームとしての取り組みが重要なんですね。でも、正中キャプテンならではの考え方や取り組みもあると思いますが。
 「それはダメ、あれはダメというのではなくて、上手く個人の能力を発揮できるようオープンな雰囲気を作り出すことだと思います。特に僕が何かをしてあげないと、というのはありませんが、選手一人ひとりの良さをできるだけ多く発揮できるように考えるのは大事なことだと思います。今のアルバルクであればディフェンスをタフにやり切る。少しずつテンポを取って、良いプレーにつなげていこう……僕がどうこうではないです。コーチ陣やスタッフともいろいろなコミュニケーションを取りますし、選手同士も練習中はたくさんコミュニケーションを取っています。練習の時間も含め、一緒にいる時間の多さがチームを作っていくと思いますが、その時間が我々は多いという自負があります。お互いに学び合い、理解し合いながら、チームの完成度を高めています。まだまだこれからチームの完成度は上がっていくはずですし、そうしなければ勝てないと思います」

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 まだどのチームも2戦を終えたばかりで、何かを断定的に語るのは早計だろう。しかしながら、「アルバルク東京は優勝候補の一角」というのは間違いない。なぜなら、正中キャプテンがチームを見守り、引っ張っているからだ。毎年、新戦力がチーム力を押し上げ、対応力、遂行力の幅を広げていけるのは、扇の要とも言うべき正中の存在があるからに他ならない。

 自身のコンディションについて、「昨シーズンの開幕よりは良いと感じています」と少し照れたような笑顔を見せた。選手として最低限の準備だというが、常にチームのこと、チームメイトのことを意識している彼が、皆で挑む3連覇への準備を、ちゃんとしてきた証だとわかった。