ホームゲームの演出家
アリーナMCが自らに課す使命

2019年06月22日



文:吉川哲彦/写真:佐山裕亮/東京羽田ヴィッキーズ/アースフレンズ東京Z

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 興行としてホームゲームを開催する各クラブがそれぞれに特色あるアリーナ作りをしている中、その一端を担うのがアリーナMCの存在だ。どのアリーナMCもホーム感を醸し出す工夫を凝らしており、名物MCも多数現われ始めている中から、今回は3名のアリーナMCを紹介。重責に臨むそれぞれの姿勢からMCのあるべき姿を見出してみたい。

隣の兄ちゃんがマイク握ってる!
 2018-19シーズンがクラブ創設7シーズン目となった群馬クレインサンダーズで、1シーズン目からアリーナMCを務めているのが佐山裕亮。地元群馬を拠点にラジオパーソナリティーや声優の仕事をこなすなど、“声”を商売道具にしている人物だ。

 バスケ経験のある佐山は、例えば審判の笛が鳴った時にそれが何を意味するかを瞬時に理解し、観衆に向けて的確に伝えることができる。「ミニバスの試合などで急に審判をやらないといけなくなった時にパッとできる人なら、MCも務まると思う」と佐山が言うように、レフェリングができるかどうかはMCとして重要な要素の1つだ。もちろん審判やテーブルオフィシャルとコミュニケーションを取る能力も求められ、その点で佐山の人当たりの良さは大きな武器といえる。

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 加えて、MCには状況を偏りなく見極める冷静さも必要となる。当然ながら佐山もその点は心得ているが、一方で「一番大切にしているのはブースターさんと同じ目線でいること」とも語る。佐山はアウェーにも度々出向き、自らコールリーダーを買って出るほど熱烈にチームを応援。チームへの愛と客観的な視点のバランスを考えながら、7年間MC席に座って試合を滞りなく進めてきた。

 「いろんなMC像がそれぞれにあって、正解がないものだと思います。もともと僕は『隣の兄ちゃんがマイクを握っている』という感じが一番合っていると思うんです。その熱さを失わないようにしながら冷静に状況を見て喋る、僕はそういうスタイルを取りたい」

 そんな佐山の熱さが、群馬の地に“応援する文化”を育んできた。観客動員では苦戦が続いているものの、応援のクオリティは確実に向上していると佐山も胸を張る。

 「最初は自分がコールリーダー的にガンガン声を出して引っ張っていく感じだったんですが、今はある程度ブースターさんにお任せして、自分が声を出すのではなく“出させる”ことに特化できるようになりました。『ここだよ』という合図だけ出して『あとはみんな頼むね』という状況になったのは、ブースターの皆さんの力がついてきたのかなと。お客さんと心を通わせながら盛り上がって、良くない時は我慢して、それがお客さんのアリーナ体験になる。『面白かった』とか『また来たい』と言ってもらえるように、僕の力だけでなく選手やブースターや運営とみんなで手を取り合って環境作りをしたいですね」

ナイスプレーは相手でも褒めたいなぁ
 周囲との一体感を重視するのは、Wリーグの東京羽田ヴィッキーズでアリーナMCを担当するMOJAも同じだ。LION HEADというトリオで活動しているお笑い芸人のMOJAは、急きょ代打で出演したイベントである人物と知り合ったことから、ストリートボールリーグ「SOMECITY」でMAMUSHIとともにMCを務めることになる。その人物、AN-CHANがその後東京羽田ヴィッキーズのホームゲーム演出に携わることになり、そこでもMOJAに白羽の矢が立った。

 バスケの経験がまったくなかったMOJAは「若かったから何でもチャレンジしようと思って、やることに怖さはなかった」というが、SOMECITYのステージに立った当初は「ろくにバスケを知らない奴が」と叩かれることもあったそうだ。

 「でもバスケのことはわからないから、とにかく盛り上げることにシフトするしかなかったんですよね。音楽系のイベントでもお客さんとコンタクトを取ってどれだけ温かい空気にするかというところから始めたので、どちらかというとお客さん目線になってます」

 その“お客さん目線”は試合開始前から発揮され、開場直後から客席や物販ブースを歩き回って来場者にマイクを向ける。応援練習では対戦相手の応援団にも声を出させる。選手紹介も両チーム同じ音量、同じテンションで行うのがMOJA流だ。

 「3ポイントが決まったらB’zの『ULTRA SOUL』をかけるみたいな予定調和も必要だし、逆に一見さんでも楽しめるようなこともやりたいし、とにかく参加型の会場にしたいんです。せっかく来てくれた人を置き去りにしたくないので、みんな勝ち負けはおいといて楽しんでくれればなって。極論、相手がめちゃめちゃ良いシュートを打ったら褒めたいんですよ。でも応援しているのはヴィッキーズ。僕ができるMCってそういうスタイルかなと思ってます」

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 東京羽田がMOJAをMCに起用して7シーズン。「最初は全然勝てなかったんですけど、瀨﨑(理奈)と落合(里泉)が入ってきて何とか勝てるかなという空気になったのが3年目。そのシーズンの最後の2試合にようやく勝って、そこから徐々に強くなってきたのが楽しい」と、MOJAは今やチームの歴史の証人でもある。それだけに、長く応援しているファンにも親しまれているようだ。

 「お笑いの舞台を見に来てくれる人もいますよ。あとは試合中に『おはぎ食べない?』って言ってくる人もいて、『いや、喉パサパサするから(笑)』って返したり。温かいですよ、ちょっと年齢層高いですけどね(笑)」
ホームゲーム運営に力を入れるクラブがまだ少ないWリーグで、どこかアットホームな雰囲気も醸し出している東京羽田のホームゲームの空気感は一層際立つ。もちろんそのエンターテイメント性は、MOJAの存在を抜きにして語ることはできない。

遠慮なしにアジテートしちゃう
 最後に登場するのは、東京羽田と同じく大田区総合体育館をホームアリーナとしているアースフレンズ東京ZのMC Ume。前任者のMOJAからその大役を引き継いだUmeは、日本のバスケMCの中では数少ない、10年を超えるキャリアの持ち主。バスケの経験はないものの、アメリカに住んでいたこともあるUmeはNBAを観るのが好きだったといい、bjリーグ発足初年度に東京アパッチから声をかけられてその任に就いた。

 「アパッチの当時の社長との初対面が、いきなり拉致られる形で新潟アルビレックス(チーム名は当時)のホームゲーム観戦だったんです。そこで『こういうのどうだ?』と言っていただいて、その前からナレーション等、声の仕事をしていたので是非ということで、ルールも詳しくないまま始めた感じです」

 MOJA同様、バスケの経験がないことでUmeは苦労した。携帯電話の番号がネット上に晒されて夜中に無言電話がかかってきたり、駐車場に停めていた車のミラーがなくなっていたりしたこともある。今でこそ「相手チームのブースターに『うるさい』と言われるのは褒め言葉。『みんな俺のこと気になってるんじゃん』って(笑)」と達観するUmeも、当時を振り返ると「正直、最初の2年間はつらかった」とこぼす。

 しかし、Umeは努力を重ねてそこから這い上がる。当時のJBLの試合や、MAMUSHIがマイクを握っていたストリートボールリーグ「LEGEND」や「ALLDAY」に足を運んでMCのスタイルを勉強し、東京アパッチのブースターが集う酒席にも顔を出した。

 「今だから言えますが、クラブ側からは試合会場以外でブースターと接することを禁じられていたんです。でも僕はそれを無視した。ブースターの皆さんがホームゲームをどう感じて、何を求めているのか、生の声を会場で反映したいと思ったんです。最初は嫌われたりもしましたが、『そんなこと言わずに話を聞かせてくださいよ』って飛び込んでいった。とにかく素人が認めてもらうために必死でしたね」

 そうしてMCに求められる要素や自身のオリジナルのスタイルを模索しながら徐々に認められ、確固たる地位を築いたのが3シーズン目。チームの成績向上とも相まって、過去2シーズンになかった熱気がホームゲームに生まれた。その後運営会社の変更などで紆余曲折がありながらも5シーズンを務め上げ、「アパッチの継承チームという雰囲気もあったと思うんですが、実はまったく別物。それも良い経験になった」という東京サンレーヴスでの4シーズンを経て、現在の東京Zに至る。

 山野勝行代表とはクラブのプロ化の時点で接点があり、それ以来常に気にかけていたというが、その東京Zからオファーを受けた時、Umeは「会場の指揮者になってほしい」という言葉をかけられたそうだ。

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 「Zgirlsもいれば、僕の後ろにはDJ Toshikiもいる。その中で、お客さんが何を求めているかを即座に判断して、例えば音もZgirlsのパフォーマンスも止めて声だけで煽るとか、そういったことをライブでやっていかないといけない。『会場全体を見渡して指揮してくれ』ということだったので、今はZgirlsが使う曲の編集もしてますし、全体の台本も僕が書いてます。演出のプロデューサーとして、すべてを任せてもらっている状況。もともとそれはずっと意識してきたことでもあるので、原点に戻った感じです。もちろん大変ですけどやり甲斐はあるし、楽しいですよ」

 ただ喋るだけではなく、微に入り細にわたってアリーナの雰囲気を作り上げるUmeは、この先も「必要とされればやり続けたい」と意欲を示す。

 「自分で言うのも変ですが、こういうスタイルのMCはなかなかいない。他のチームのMCさんが『Umeさんっぽいね』なんて言われてたらシメシメと思っちゃう。B1のMCさんは僕のようにアジテートしないというか会場を煽らないところがあるので、アースフレンズがB1に上がって僕のようなタイプのMCがひとつのカラーになればいいなと思います」

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 上記の3名はそれぞれにキャラクターがありながら、観客との一体感や仲間意識を重視している点は共通している。クラブのスタッフや選手はもちろんのこと、ブースター・ファンとともにアリーナの雰囲気を高揚させるのがMCの使命と言えるだろう。B.LEAGUEとWリーグは計60クラブ。他にも魅力あるホームゲームのために粉骨砕身しているアリーナMCが数多くいる。それぞれがどのようなアリーナ作りをしているか、是非その目で確かめていただきたい。