東京羽田ヴィッキーズ
去り行く風と新たな息吹

2018年04月02日



文:吉川哲彦/写真提供:WJBL

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 3月10日でWリーグは各チーム33試合のレギュラーシーズンを終え、東京羽田ヴィッキーズは9勝24敗の10位。昨シーズンに続いてのプレーオフ進出はならなかった。それから11日遡る2月27日に、その東京羽田から「瀨﨑理奈引退」というビッグニュースが飛び込んできた。

 拓殖大学から東京羽田に入団して4シーズン目。まだ26歳であり、最終戦の日立ハイテククーガーズ戦でも連続3Pシュートや狙いすましたスティールなど、そのプレーに衰えは感じられない。当然ながら引退を惜しむ声は多いが、瀨﨑にとって今シーズンは苦悩のシーズンでもあった。

 「ヘッドコーチが求めるバスケットの構想に自分が入っていないのを感じていて、プレータイムが少ない試合もDNP(不出場)の試合も多かった。それでも試合に出た時は自分らしさを出せるようにという思いを持ちながらやってきたんですけど、自分の持ち味である3ポイントやアグレッシブさが出せなくなって、パフォーマンスが下がっているのも感じていました」

重い決断。次のステップへの充電期間
 瀨﨑が引退を決断したのは、まだレギュラーシーズンを13試合残していた時点だという。早い時期に決断を下したことも驚きだが、シーズン終了前に発表したこともファンを驚かせた。Wリーグでシーズン中に引退が発表された例はほぼ皆無だからだ。

 発表された2月27日の時点で残り試合は「3」。すべてホーム大田区総合体育館での開催だった。

 「移籍も一応考えました。でも、もともとは私の中で移籍という考えはなかったんです。このチームがすごく大好きで、ファンの温かさだったり、地域活動だったり、地域密着型のプロという形に憧れてこのチームに入団したので。まだバスケットは好きですし、まだやれるかなという思いもあるんですけど、やっぱり自分のパフォーマンスが下がっているので……早いと思われるかもしれないですけど、自分の中では区切りと思って決めました」

 「残り10試合くらいの時に、チーム側に『公表したい』という話をしました。もしわずかでも私を見たいと思ってくれている人がいたら、終わってから『引退します』というのは申し訳ない。サイン会とかでも『来年も頑張ってください』とか『来年もオールスターに選ばれてくださいね!』と言ってくださる人が多いんです。できれば今シーズン中に観に来てほしいということを身近な人には伝えてきたんですけど、その人たちがすべてではないですし、こうしてSNSで発信できる時代だからファンの人にはお知らせしたいと思いました」

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 地域密着型のプロだからこそ入団し、もう一つの理由として「ヴィッキーズを強くしたかった」とも語る瀨﨑。「他のチームからの誘いは?」という問いに「なくはなかったです」というが、それでも東京羽田を選んだ自身の決断は固いものだった。

 「Wリーグが毎年あまり順位が変わらない中で、落合(里泉、現シャンソン化粧品)と一緒にこのチームを強くしたいと思ったんです。ちょうどチームも強化し始めた年で、私もいれて同期が4人いたんですけど、特に落合とは『私たちなら変えられるよね』という話をよくしていました。4年間本当に黒星が多くて、全然勝負にもならない試合もあったりしたんですけど、自分が少しでもいいプレーを見せることができると、それだけで『観に来て良かった』と言ってくれる方が多くて、それに背中を押されてきました。もちろん勝つことにこだわってやってきたし、勝ちたい思いは強いんですけど、『勝つことがすべてではない』ということはバスケットを始めた頃からずっと持ってきたもので、そういう自分のスタイルをこのチームに来て改めて表現できたかなと思います」

 まだ26歳。大きな故障もなく、折しも3x3の女子プロリーグも今夏開幕する。瀨﨑も「お誘いが結構あって」と笑顔を見せたが、「実家のある福岡に帰るので、お話を聞いてから」と現段階では白紙の状態。ただ、バスケットに対する思いはきっと瀨﨑自身の心を突き動かすだろう。

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“新たな息吹”がエネルギーになる!
 東京羽田は、シャンソン化粧品時代に優勝の経験がある森本由樹と、エバラヴィッキーズ時代から6シーズンプレーした高木亜利沙も引退。さらに上酔尾巳唯の退団も発表された。そんな大きな転換期に差しかかったチームをこれから背負って立つ1人が、シーズン途中にアーリーエントリーで加入した津村ゆり子だ。東京医療保健大学をインカレ制覇に導き、MVPも受賞。夏に開催されたユニバーシアードでも日本の銀メダルに貢献した。来シーズン再びプレーオフ進出を目指すチームにとって大きな補強であることは間違いない。

 「練習を見学して、『走れ走れ』という感じのバスケットが自分に合っていると思ったのでここを選びました。チームからアーリーエントリーしてほしいと言われましたし、自分も早くWリーグに慣れて活躍したいと思いました」

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 入団初戦となった1月13日の日立ハイテク戦で早速25分ものプレータイムを与えられ、4得点4リバウンド6アシストの活躍でチームの逆転勝利を演出。合流していきなり主力級の働きを披露してみせた。しかし、大物ルーキーといえどもチームを勝たせることは簡単ではなく、津村自身も壁の高さを実感している。

 「大学までは決まったセットプレーがあって、その中でここがチャンスになるというところを理解してやっていたんですけど、今はフリーランスに近い感じなので状況をしっかり見ないといけない。自分でチャンスを見出さなきゃいけないのがちょっと難しいと思っているところです」

 しかし、常に全力疾走を欠かさないそのスタイルはチームを鼓舞し、先頭に立って引っ張ろうという気概も感じられる。「得点源になりたい」という言葉は、まさにその気概の表れに他ならない。

 「大学の時は監督が『エネルギー、エネルギー』というのをいつも言っていた。バスケットは『どちらが気持ちが強いか』だと思うので、それはずっと意識してやっています」

 これまでは、ただひたすら勝つために走ってきた津村だが、ホームゲームで大きな盛り上がりを見せる東京羽田に入り、その意識も変化してきたようだ。

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 「ホームゲームは会場の雰囲気がすごくて、ファンの応援のすごさというのをプロになって感じています。チームのためだけじゃなく、観に来てくれる人たちのためにも頑張らないといけないと思うようになってきました。熱心に応援してもらえる分、感動を与えられるようにしたいです」

 そのアグレッシブなプレーのみならず、ファンの存在の大切さを知ったという点でも、津村は瀨﨑の後継者としてこれからの東京羽田を引っ張っていくに違いない。