金沢武士団の過去、現在
そして未来

2018年06月18日



文:吉川哲彦/写真:B.LEAGUE

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同志の指揮官が継いだ“意地”
 アルバルク東京の優勝で幕を閉じたB.LEAGUEの2シーズン目。トピックの1つとして忘れてならないのは、ライジングゼファー福岡がB2を制覇したことだ。B2全体を振り返った時、B1から降格した秋田ノーザンハピネッツとB3から昇格した福岡という対照的な2クラブがB1昇格を勝ち取ったことは特筆に値する。

 しかし、今回注目したいのはその2クラブのいずれでもなく、福岡とともにB3からステップアップしてきた金沢武士団だ。

 鈴木裕紀ヘッドコーチが率いた昨シーズンの金沢は、選手8人の体調不良でキャンセルゲームが発生したことが影響してファーストステージ制覇を逃したものの、レギュラーシーズンは23連勝を記録して堂々の1位。ファイナルステージの直接対決で連敗を喫し、総合優勝をライジングゼファー福岡にさらわれてしまったが、B2の2クラブにB2ライセンスが発行されなかったことで福岡とともにB2昇格となった。

 今シーズンは鈴木HCが島根スサノオマジックに去り、新潟アルビレックスBBでアシスタントコーチを務めていた堀田剛司がヘッドコーチに就任。新体制でB2に挑んだが、所属した中地区が混戦模様となった中で地区優勝争いから次第に遠ざかり、最終的には28勝32敗で中地区4位。西地区を独走した福岡にまたしても後れを取る格好になっていた。

 しかし、ホーム金沢市総合体育館で行われた5月4日、5日の最終節、数奇な巡り合わせとなった福岡戦で金沢は最後に意地を見せた。以下にその2試合の詳細を記しておこう。

絶対に負けられない“勝負”
 1戦目、井上裕介の連続得点などで、開始3分余りで13‐0という最高の立ち上がりを見せながらも、その後4分以上無得点で一気に追いつかれる。そこからはクロスゲームとなり、前半は36‐38の2点ビハインド。

 3Qも2度6点差をつけられたがその都度追いすがり、残り約1分半で逆転。1点リードで迎えた4Q、決定力を欠いた金沢を尻目に福岡が得点を伸ばし、残り4分の時点で62‐70と暗雲が漂う。しかし、そこから金沢は1本ずつ返しながら福岡に得点を許さず、残り29秒でついに71‐70と再逆転。残り7秒でのスローインをスティールされてしまうが、井手勇次が執念のルーズボールでボールを外に弾き出し、速攻のピンチを防ぐ。タイムアウトを取った福岡は得点源エリック・ジェイコブセンの3Pシュートに逆転を託すが、これがリングを弾いてタイムアップのブザー。71‐70のまま金沢が逃げきった。

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劣勢を跳ね返し連勝した“プライド”
 翌日の2戦目、前日と打って変わって立ち上がりは劣勢にまわるが、この日も井上が速攻に3Pシュートにと得点を量産し、点の取り合いの様相を呈する。ファイパプ月瑠の力強いインサイドアタックに苦しむものの、月野雅人が4得点4リバウンド6アシストの活躍を見せた1Qは28‐23。しかし、2Qに入ると約3分で逆転を許し、そこからはやはり接戦に。1点リードの場面から約3分にわたってスコアが止まった後、リードが入れ替わる状態から福岡が抜け出し、39‐41と2点ビハインドでの折り返しとなる。

 後半もジェイコブセンらのインサイドを強調した福岡が得点を重ね、点差は最大12まで拡大。8点差まで戻して最後の10分を迎えた金沢は、残り7分のフィッツジェラルドのバスケットカウントからギアを上げる。1分後に木田貴明の3Pシュートで同点に追いつくと、さらに2分後に木田の3Pシュートが再び炸裂して逆転。残り1分27秒には木田のこの日4本目の3Pシュートで6点差とし、ファウルゲームのフリースローもしっかり決め、80‐74で熱戦にピリオドを打った。

 「スカウティングで見たのとまったく違う。何故この順位、この成績なのかわからない」と金沢を評したのは敵将、河合竜児HC。福岡にとっては、この連敗が今シーズン唯一の同一カード連敗。開幕間もない第3節、福岡のホームで対戦した際も、福岡の連勝に終わったとはいえ2試合とも延長にもつれ込む大熱戦だった、リベンジを期する金沢が、相当な意気込みでこの2試合に臨んだことは間違いない。

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 「本来であれば僕たちも中地区で優勝して、同じ状況で最終戦でやり合えれば良かったんですが、B3から上がったチーム同士としていい意味のライバル意識を持ちながらやってきました。結果として差はついてしまったんですが、最終節でもありますし、声援を送り続けてくれたブースターさんの気持ちに応えるためにこの2試合はどうしても勝ちたかった。昨シーズンからやり合ってきて、今シーズンもオーバータイムで2回負けたという意識はチーム全員の中にあったと思います」(月野雅人)

 「福岡さんも我々もヘッドコーチは代わったがロスターはそんなに変わっていない。そういう意味では、僕たちはまだまだ力不足だったと思います。それでも、アウェーで2試合とも延長で負けた相手に、今回クロスゲームを勝ちきれた。特に福岡さんはプレーオフも控えて負けられないという思いで戦ってきたと思うので、その中で僕たちが意地とプライドを見せることができたのは良かったです」(与那嶺翼)

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「継続」と「変化」の中で紡いだ“力”
 ヘッドコーチが代わったことは前述の通りだが、それに加えて高松勇介や後藤翔平の移籍があり、開幕前にはジーノ・ポマーレも移籍。一昨シーズンはbjリーグ参入初年度でプレーオフの切符を勝ち取り、昨シーズンはB3で総合2位。その2シーズンを支えたヘッドコーチや選手が抜けたことは、人数の上で大幅な入れ替えとは言えないまでも、多少なりとも影響があったはずだ。

 今シーズン信州ブレイブウォリアーズでプレーした高松は、2シーズンを過ごした金沢のチームとしての良さをこう述懐する。

 「とにかくチームで守って、チームで攻める。『個』で戦うというのは基本的になくて、一人ひとりがチームのために考えて、チームのために動く。その中でチームのために『個』が出ないといけない時だけ『個』が尊重されることもある、というチームでした。お互いに言いたいことを言い合えるチームで、1年目はみんな遠慮していた感じもありましたが、2年目は『ケンカしてもいい。そうやって言い合うことが大切なんだ』というカラーになりました。最後は福岡の『個』が勝ってしまって、まだチーム力が足りなかったのかなと思いますが、『チームで戦った』というのは自信を持って言えます。連勝中も、油断とか過信はまったくなかったと思います。向上心がある人ばかりだったので、『上(B2)に行けばこんなことはない』とみんな思っていたはずです」

 鈴木HCの置き土産である結束したチームを引き継いだ堀田HCとしては、逆にまとまりがあるチームだからこそ苦労したことも多かったに違いない。コーチによってそのフィロソフィーは異なるのが常。鈴木HCと堀田HCは高校と大学だけでなく、その後も新潟アルビレックス(チーム名は当時)でともに歩んできた間柄だが、理想とするバスケットスタイルやコーチングの手法などがすべて一致するわけではない。

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 「鈴木HCがつくり上げてきたバスケットは特にディフェンスの部分で素晴らしかったので、そこを継続しながら自分なりのオリジナリティのあるオフェンスを展開していきたいと思っていました。ただ、やはり鈴木HCをリスペクトしている選手はいますし、当然鈴木HCと僕の考え方は違う部分があるのでズレが起きてしまうことはあって、『これをやるんですか?』と言ってきた選手もいました。そこはしっかり僕の考えを伝えていくようにはしていましたし、特に負けが込んだ時は選手もテンションが下がってパフォーマンスに影響してしまうので、できるだけモチベーションを上げられるようにコミュニケーションを取ることは意識してやってきました。僕がやろうとしているバスケットを、選手たちはよく頑張って遂行してくれたと思います」(堀田HC)

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同志からライバルへの“新展開”
 「個」の集団から組織力重視のチームに変貌した福岡と、組織としてやや足踏みしてしまった金沢。その差がシーズンの成績に如実に表れた形だが、もちろん金沢もこのまま手をこまねいているつもりはない。チーム内では年長者の部類に入る与那嶺は、現状をしっかりと認識しながらも常にポジティブな言葉を発し、チームに良い影響を与える選手だ。

 「選手がもっと高いパフォーマンスを見せて、コート上だけでなくコート外でもプロとしての姿勢や言動、行動を見せていかないといけない。3シーズンこのメンバーと一緒に戦って良い経験ができたし、これからどんどん良い伝統を築いていければと思います。武士団の未来は明るいと思っています」(与那嶺)

 月野は移籍の道を選んだものの、与那嶺や井上、井手勇次といった中核をなす日本人選手は早々に残留が確定。来シーズンは、少なくともリーグ戦では福岡との対戦を見ることができないが、鈴木HC率いる島根とは対戦することになる。新たなライバルストーリーの誕生にも期待したいところだ。