バスケは映画──競技未経験者
島田慎二のバスケットボール観

2017年09月27日



文:吉川哲彦IMG_9320

 「まったく興味なかったです」
 言葉の主は島田慎二。興味がなかったその対象は、バスケットボールである。

 過去形で語っていることからもわかるように、もちろんこれは昔の話だ。日本バスケ界初の入場者数年間10万人達成など、千葉ジェッツを屈指のビッグクラブに押し上げ、その辣腕ぶりを買われてB.LEAGUEバイスチェアマンという重責を任されることが決まった島田も、経営コンサルタントとして千葉ジェッツと関わるまではバスケットボールというスポーツにほとんど縁がなかった。未経験者の場合は体育の授業でしかボールに触れたことがない人がほとんどだが、島田もその例に漏れない。

 「超苦手でした。とにかくボールが重くて、ハンマー投げかと思うくらい。サッカー部だったので脚は強かったんですけど腕は細いので、今でも選手を見ていて、あんな重いボールで何故3Pシュートが届くのか不思議ですよ。ジェッツに入るまで24秒ルールも3秒ルールもわからなかった。どこからどこまでが3秒なの? って(笑)」

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©B.LEAGUE

 経験がない上に、知識も「マイケル・ジョーダンが野球に(一時期)転向したことだけは知っている」という程度。さらに「仕事として関わることもまったく想像していなかった」という島田が、何故バスケ界で成功を収めているのか?

 その答えは「バスケ経験がなかったから」だ。
 ジェッツを運営する時の優先順位を考えて、最初に『経営』にフォーカスしたことが一番大きいと思います。良いチーム、良い選手にはお金が必要。私は、バスケは専門外なのでチームのことは現場に任せて、稼ぐことに力を入れました。バスケットが好きで詳しかったらやはり現場に関与しようとするでしょうが、それでビジネスがおろそかになってしまったら本末転倒。私の場合はバスケを知らないので関わりようがない。『経営』に集中できたのはバスケの経験がなかったからこそだと思います」

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 ジェッツの代表としてしがらみにも既成概念にもとらわれることなく、思い切ったこともできたと語る島田。しかし、リーグの要職に就くとなれば、今後何のしがらみもなく手腕を発揮することは次第に難しくなってくるという懸念もある。何より、そういった業界内のしがらみこそがB.LEAGUE以前のバスケ界の発展を阻んできた要因の1つといってもいい。

 だが島田に関しては、「BREAK THE BORDER」を掲げる組織に請われただけあって、その心配をする必要はなさそうだ。
 「6年くらいこの世界にいるので、たぶんもうしがらみはあるんだと思いますが、私は気にしません。それを気にした瞬間に私がいる意味はなくなると思うんですよ。旧態依然のものを変えなきゃいけない中で私のような新興の人間がそこにとらわれてしまうのであれば、他に優秀な人がたくさんいると思います」

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©B.LEAGUE

 そんな島田も、バスケにほとんど縁がなかったとはいえあくまで「ほとんど」であり、一切縁がなかったわけではない。実はかつて、島田が起業した会社の関係者が東京アパッチ(bjリーグ)のスポンサーになっていたことがあった。
 「チケットはよく来ていましたが『興味ないから』と言って試合は1回も見に行きませんでした。ただ、bjリーグの中野(秀光、現金沢武士団代表)社長とかコミッショナーの河内(敏光、現B.LEAGUEテクニカルアドバイザー)さんとは、bjリーグができる前からお付き合いがありました。今思えば由縁はあったんです」

 やがてそのbjリーグに参入した千葉でクラブ運営に携わるようになり、バスケットボールという競技の面白さに目覚めていくのだが、その面白さとして「スピーディーな展開」や「盛り上がる場面が多い」といった競技の特性を挙げないところが島田らしい。

 「映画だと思いました。2時間くらい集中して観てしまう。『ここは映画館だ』という印象から、プロデューサーとしてストーリーやキャストを考えてヒット映画を生み出そうという感覚ですね。固定概念にとらわれず発想を豊かにするために、むしろスポーツ以外のものを何でも見るようにして、必ず何か吸収しています。映画もそうですし、美術館やディズニーランドやコンサートもそう。ジェッツもまだまだすべてを成し遂げたわけではないですし、常にそういう姿勢は大事にしています」

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©B.LEAGUE

 クラブ運営を「エンターテインメント産業」と位置づけ、千葉ジェッツの社員にも「スポーツビジネス」という文言を使わせないという島田ならではの発想といえるだろう。

 バスケ経験のなさを逆手に取り、今までのバスケ界にはない視点で千葉ジェッツを成長させてきた。これからはリーグの顔としても、バスケ界の常識を覆す“島田流”の新機軸を打ち出していくに違いない。